「運動器」といえば骨や筋肉、関節、その周りの靭帯など、体を動かすための組織をまとめて呼ぶ言い方です。「運動器疾患」というと「痛がっている」「歩き方がおかしい」といった症状を想像しますが、実際にはそういうものばかりではありません。
例えば、小型犬でよく見られる「膝蓋骨脱臼」。
よくありすぎてあまり気にもされないのか、10歳位で初めて来院された子のご家族に「この子、膝の関節が外れますね」というお話をすると、「以前言われたことがあるけど症状が見られたことはないので気にしたことがありません」ということや、ひどいと「そんなこと言われたことありません」と、存在すら知られていない(忘れられているのか、指摘がなかったのか・・・)場合があります。
こうした異常は当初は目立った症状がありませんから、程度にもよりますが日常生活には全く問題ない場合もありますが、歳を重ねる毎に膝の状態が悪化していずれ問題を起こします。問題を起こしてからできることは痛み止めの投与や手術になりますが、本当はそうなる前に気をつけてケアすることでそこまで悪くならないことも多くあります。
最初の段階で知っていればできることがいろいろあるということです。
アニコムが公開しているデータによれば、子犬の通院理由の第3位が運動器疾患で、一年間で1〜8歳の犬の7.6%(11万頭も!)が運動器疾患の治療を受けており、8歳以上では8.3%と高齢になると増加するようです。
また、猫でも最近は高齢になると関節疾患が増えることが知られており、、猫の3頭に1頭が関節疾患を患い、12歳以上ではなんと90%異常が罹患しているという報告もあります。猫では「最近歳をとって寝ていることが多い」と思われていた子が実は痛みをかばってあまり動かなくなっていた・・・などということも多く、適切な処置により「元気になった(のではなく元通りになった)」ということもあります。猫の性格にもよりますが、痛みを訴えず我慢していたり、病院では緊張や興奮で犬よりも微妙な関節の異常を見つけづらいといったこともありますが、例えば歩き方の動画を撮影してきていただくなどすると以上がわかりやすい場合もあります。
人では運動器疾患を罹患していると健康寿命が短縮することがわかっており、これは犬や猫にも当てはまると考えられます。寿命が伸びるといろいろな問題が起きてきますが、「痛みが続くのはなんとかしてあげたい」と考えるご家族が多いと思います。これまでは「痛みが出たら薬でなんとかして欲しい」ということが多かったですが、「将来痛みが出ないように若いうちからいろいろ工夫しておきましょう」という時代になってきています。
関節疾患は「進行性」の疾患です。「痛みがなくなった=治った」ではなく、痛みのある時期と内直がありながら数年単位で進行して最終的には「痛みが取れない」状態になってしまいます。「ときどき足を引きずるけどすぐに治るみたいだしいいかな・・・」って放置しておくと、そのうち痛みが強くなって取り返しがつかなくなりますから、症状に気づいたら早く病院に連れて行ってあげてくださいね。また、「関節がちょっと心配ですね」と言われたら、すでに始まっている関節の疾患ができるだけ進行しないように長期的な計画をたてる必要があります。
早く気づいて治療を始めれば、手術以外の方法がいろいろあります。
痛い時の症状は「動物のいたみ研究会」がわかりやすい基準を公開しています。参考にしてみてください。