先日スタッフセミナーを院内で実施しました。今回の主題は心臓疾患について。
日本では人間の高齢化と同様犬の高齢化も進んでいて、年令と共に増える心臓疾患はすべての犬の10〜15%、7歳以上のいわゆる「高齢犬」では30%が罹っているそうです。
当院ではワクチン時、あるいは毎年のワクチン検診時に必ず心臓の聴診をするようにしていますが、やはり年令と共に少しずつ心臓の音の中に「雑音」が混ざるようになるコが多いです。
小型犬では心臓の病気の中でも、血液の逆流を防ぐ「弁」の閉まりが悪くなり、弁の隙間から血液が逆流してしまう「弁膜症」が最も多く見られます。まず最初に身体検査でわかる症状は「心雑音」が聞こえるようになってくるというもので、この段階では犬には何も症状が見られません。心雑音に気づかないまま歳を取っていくとやがて心臓の動きが体の動きについていけないようになって咳が出たり、運動を嫌がるようになったり、最終的には命に関わるような症状が出ます。心臓は「治る」ことの難しい臓器のため、いかに悪くなる速度を遅くして長持ちさせてあげられるかが重要になってきます。このため、心臓病の治療は少しでも早く発見して投薬を開始するかが重要です。
データとして、心雑音が聞こえ始めてでもまだ無症状なときの(治療しない場合の)余命は2〜4年程度、咳が出るなどしてから治療を始めた場合は2〜数カ月と言われています。また、心雑音が聞こえて心肥大が始まったところで投薬を始めると、症状が出てから投薬を始めるのと比べると5年後の生存率が約20%、6年後の生存率が約40%も違うことがわかっています。
これらのことを考えても、少なくとも14〜15歳くらいまでのワンちゃんでは少しでも早く発見して治療を行ったほうがいいでしょう。
心雑音が聞こえ始めたときは、獣医師が「心雑音が聞こえます」という以外何も症状がないことがほとんどです。場合によってはレントゲン検査で心臓が少し大きくなり始めているかもしれません。それでも体の外からはその異常が見えません。心臓のお薬は最初に始めるときは一日1回の投与が多いのですが、お薬をやってもワンちゃんの体調にはほとんど何も変化が見られません。このためどうしてもお薬を忘れがちになってしまいます。でも、心臓病の治療は「症状が出ないようにしておく」ための治療です。症状が出てからの治療はお薬の量も回数も増えますし、どれだけ治療しても症状がなかった頃の心臓に戻すことはできないのです。
「10年間一度も病院に行ったことがない」というワンちゃんが時々いらっしゃいますが、それはこうした目に見えない病気に気づいていないだけということもあります。「病院に行かない」ことを自慢するよりも「定期的に病院で健康診断を受けている」ことを自慢できるようになるといいですね。
右は心臓病の進み方をグラフにしたもの。角度をどれだけ緩やかに出来るかで病気の進み方が大きくかわります。治療によりグラフが右上がりになることは残念ながらありません。どの時期に見つけて、どれだけ角度を緩やかにしてあげられるか。病気を早く見つけて治療をしてあげるには、ご家族の努力が必要です。